『哲平?』
「………」
『うん、大丈夫。生きてるよ、怪我もしてないし……威に攫われたって事もない。』
「………」
『……、駄目だ、戻れないよ。』
「………」
『所長が積み上げたものも、森川の願いも、犠牲になったひとの嘆きも、俺は一人で全て潰した。それが逃げだと知っていても、どうやって帰ったらいいか、分からないんだ。』
「………」
『謝る言葉もないけど、成美さんを宜しく。それじゃあ、元気で。…………ごめん、哲平。』




「待て、切んな、………恭介ぇっ!」








隠れ鬼






「見習い、こないねえ。試したいメニューたくさんあるんだよー?」
「………」
「そんなことないよ。いつもランチ頼んでたでしょ?」
「………」
「でもさあ、見習いどこで迷ってるのかな。きっとお腹空かして、そのうち帰ってくるよね」
「………」
「うん、じゃあ、いつ来ても良いように待ってる。見習い、すぐごはん抜くみたいだから」







「私、真神くんに謝らなきゃ。私が、きっと追いつめたんだから…」
「………」
「ううん、真神くん、たくさんのもの背負っていたのに。諏訪さんを助けたいなんて、言うまでもないことだったのに。……そのとき、どんな気持ちだったかな」
「………」
「助けられなかったとき。私の言葉、思い出しただろうね。……真神くんは、何も悪くなくても、自分の所為にしちゃうから」
「………」
「今も、きっと真神くん。…ひとりっきりで、自分のこと責め続けてる」







『1号、早く来なさい』
「………」
『来れないんだったら、2号。』
「………」
『……早く、恭介持ってきなさいよぉ…っ』







「ったく、信じらんない。あの探偵事務所、入所資格は失踪スキルとか言わないでしょうね」
「………」
「…あー、ごめん。タチ悪い冗談だったわ。見つめるのは良いけど、にらまないでよ小猿」
「………」
「でも本当に消えてるのよ、完っ全に。アタシだってプロだから探し出してみせるけどね?」
「………」
「でも、本当に。あの刑事の『誕生日』と、祖父の命日に律儀に花束が届かなければ、死んでると思うわよね。発送元が不定なのも憎たらしいけどー?」







「………で?」
「………」
「やっぱりそっちも駄目。んー、でもまあ、重要参考人扱いはされなくても聴取はしなきゃいけないからねえ。こっちも真面目に探してるんだけどなあ。小僧の隠れっぷりは師匠譲りかね」
「………」
「それでも、消えてからしばらくまで、小僧を諏訪弁護士殺害のホシにしようって動きが強くてな。さすがにどうしようかと思ったけどぴたりと止んじゃったり」
「………」
「で、諏訪弁護士がパーツの大立者だった証拠もよくわかんないタイミングでボロボロ出てきて、小僧容疑者論を叫んでうるさかったの、なぜか異動しちゃってさあ」
「………」
「…ま、誰かさんのお気に入りに手を出すな、ってことだろうなあ」







「不肖の弟子だがなー、この消えっぷりは褒めてやってもいいかもなー。俺の失踪期間優に超えちゃったしね」
「………」
「いや、親の背中を見て子は育つって言うだろ?ま、師匠が優秀だからこそ学べるんだがな」
「………」
「不肖の弟子ながら一応探してやるし。俺が探せばあと少しで見つかるね」
「………」
「ま、俺の時は俺死んでたから結構安全だったけど。弟子の場合一応生存はバレてるだろうし、…ちょーっと急いでやった方がいいかなあ」







「真神くんは、きちんと食事をとっておるかな…」
「………」
「…彼は、自分で死を選ぶという選択は決してせんのだろうが、消極的にそれを願っているように思えてならん」
「………」
「取り乱すな、哲平。…ただ、威に歪んだ形でも気に入られてることを熟知した上で、姿を隠したわけだからな。もしそれが、威の気をこの街から逸らさせたいと思ってのことだったら、不憫でなあ」
「………」
「彼がいる故に救われた多くのものより、救いきれなかったいくつかを見つめ続ける強さと弱さが、彼にはあるからな。破滅が訪れたとき、自ら目を閉じてしまわなければよいが」
「………」
「…哲平、早く、わしに礼を言わせてくれよ。あの日、彼がおらねばわしも今生きてはおらんのだから」














恭ちゃん、…なあ。
どこにおるん?

探したら、見つけられるところにおるんよな?












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