付け心地




「ねえねえ、腕時計とか、どんなの欲しい?」

サイバリアで哲平と2人で食事中、奈々子が声をかけてきた。まずは見た目は注文した品物どおりのメニューを差し出しながら。
少し安心しつつ、箸を割る。
「なんや奈々ちゃん、腕時計欲しいんか?」
ああ、そういえばもうじきクリスマスだなあ、って待てよ?
「クリスマスにたかろうとか思ってないだろうな?」
「え、くれるの?」
思いっきり何も考えてなかったらしい返答に、どうやら自分が今、墓穴を掘り始めていたことに気付いた。
このままの流れだと、自分の好きな時計を指定されることは間違いない。
哲平をちらりと見ると、少しだけ笑っているみたいで。
「や、そうやないんやったら奈々ちゃんなんでそんな質問したん。ちなみにオレはそやな、ぱっと見時間きっちり分かって、正確なんがええな」
「え、そうなんだ。哲平ちゃんなのになんか意外かも」
確かに、俺も同感だ。哲平の腕を思わず見たが、腕時計はつけてない。俺の視線に気がついてか、哲平は携帯を上着から取り出して振って見せた。
「じゃあ見習いは?」
確かに、俺も携帯を時計代わりにしてるから、腕時計なんて最近考えても無いな。
でも、あえて言うなら…、か。


「そうだな、付けてて気にならないのがいいなあ」
「なんか地味ーな答えやなあ。デザインとかブランドとかこだわりあれへんの」
「いや、デザインはさすがに、見て好きだと思ったものを買うよ。ただほら、肌にずっと触れているものじゃないか。だから、付けて心地いいものがいいだろ?」
「まあ、そう言われればな、腕時計って気になるわな、音でかかったりしたら」
「耳に馴染むんならいいんだけどな」

「ふうん、そうなんだー」
奈々子が、椅子を引き寄せて俺達の話を聞いている。
しかし、俺達の腕時計の好み聞いて何がしたいんだ、こいつは。

「なんや、奈々ちゃんオレらに買うてくれんのか、時計」
「えー、そんなわけないって。なんか心理テストみたい。友達に聞かれたけどよくわかんなかったら哲平ちゃんたちならなんて答えるかなあって」
心理テストねえ。そういえば俺が学生のころにも流行ったかな。面白半分で答えたけど、当たるも八卦、当たらぬも八卦な代物だった。

「で、答えはなんやねん」
ああ、確かに気になるなあ。


「腕時計が恋人の暗示なんだってー」

…つまり俺は、一緒にいて居心地がいいってことか。ふと横目で当の相手を見ると、哲平も同じように俺を見てて、目が合う。
ふっと2人同時に笑うと、「なんで2人とも笑ってるのー?」と奈々子が混ぜろと言って来た。



「なあ哲平、なんでお前の答えはあれだったんだ?」
そんなこんなで、運よく普通の昼食にありついた帰り道、結構疑問だったそれを切り出してみた。
「いや、ご隠居とか白虎の兄さんたちと付き合ったり他色々裏の人らと会うとな、結構時間大変やねんて。オレ時間とかつい忘れてまうけど、そんなんあかんしな。腕時計するんなら、そういうの気にしてや思ったからな」
ああ、なるほど。確かにそういうことはあるかもな。
「しかし、恭ちゃん大胆なこと言うてくれんな?オレ思い出して顔赤うなるわ」
「え?」
俺、普通のこといったよな?

「オレ、ずっと肌に触れてても心地いい、んやろ?」
「あれは腕時計のことだよ!」
「あー、嬉しいな。オレもほんま一緒にいてやりたいんやけどな」
話を聞いてやしない。

「そやな、クリスマス、恭ちゃんに腕時計選んだろか」
「別に腕時計が欲しいわけじゃないって、そんな話じゃないだろ?」
「オレがおるもんな?」
…本当にこいつは調子に乗って。
「ああ、そうだな、お前がいるから、それ以上はいらないよ」
そうやって、思いっきり真正面から打ち返してやると。
「あああ、あかんわやっぱ。こんな恭ちゃんに、オレよりずっと一緒にいると思うと、相手腕時計でも引きちぎってまう」
…そんなおおげさな。


「じゃあ、やっぱりクリスマスプレゼントはオレで」
「いや、やっぱりって文脈つながってないぞ」




付け心地がいいのは認めるが、正確さとかそういうのは、お前に期待できそうにない。
まあ、それはお互い補い合えばいいのか。
そういうの抜きに、頼れるのは違いなくて、多分もう見つけられないような代物なんだし、な。














fin.












めりーくりすまーす…?
腕時計の心理テストは結構有名ですよね。
そして、妙に当たるような気がする。