背越しの熱に、ふと落ち着いたり安心したりすることがあるよ。
言う事じゃないと思うんだけど。
暖
「なにしとるん。…年賀状?」
哲平が、背越しに張り付きながら聞いてくる。
俺は、その通り、前に受け取った年賀状を整理してた。
「うん。今年は出しておこうと思ってさ」
まあ、出さなきゃいけない相手の住所はきちんと纏めてあるけど、人となりとか思い出すのには、その人が出したものに目を通すのが一番良い。
基本的には印刷物でも、宛名や隅に添えられた一言に目を通すと、人柄がよりはっきり思い出されてなんだか笑みが浮かぶ。
「去年とかの?」
「いや、高校3年の頃のかな。卒業してからはこういうやりとりってしなくなったし」
「んー、そんなもんなんか。オレ、こういうのちっさい頃から面倒でせえへんかったし」
「年始の挨拶くらいはきちんとしろって躾られてたからなあ」
「そんな感じやな」
それでも、最近はしてなかったけど。
でも今年は。
「うん、今年は片が付いたし。…両親のことも、判明したからさ。ニュースとかで分かってても俺が伝えなきゃいけないと思うんだ」
当然、大々的に報道された。
…行方不明の人々や、過程で殺されてしまった人々の真実も。
だから、きっとわかっているだろうけれど、それでも今年は俺の筆で伝えるべきなんだ。
もう年の瀬だし、やることはたくさんあるんだけど。
キンタとかから来たのは、俺が話に出すこともあってか、俺が目を通したあとつまみ上げて目を通してたりする。
「やっぱ恭ちゃん、学生さんの頃から巻き込まれ型やったんやな」
そういう年賀状には、得てして前年の一番情けない思い出が記してあったりするんだ。
「………まあな」
そんなこんなで、無駄話を差し挟むと結構な時間が掛かった。
一応、出すべき相手を仕分けたけど、それからまだ、祖父宛の年賀状に目を通してないと気付く。
動こうとして。
「哲平、はがれて」
「おう、すまん」
のしかかってた哲平は、自分の座るところに戻り、俺は普段使わないものを詰めた箱を出しに行く。
ふと、背中が寒いなって感じた。
ああ、哲平離れたもんな。
「哲平、暖房強くしてくれるか?」
そう言いながら、上に重ねるものを出す。
哲平は、近くのエアコンのリモコンを操作しながら笑った。
「なんや恭ちゃん、オレで暖とってたんかい」
まあ、離れたら寒いと思ったんだしなあ。
「結果的にはそうなるかな」
苦笑しながら、段ボールの中身を捜索してると、哲平の拗ねたような声が聞こえて。
「恭ちゃん、外で抱きついたら怒るやん」
さすがにそれには手を止めて、振り返って苦笑した。
「…お前なあ、さすがに大の男が大の男に抱きつかれてたら、なんか不審気な視線が刺さるんだよ。しかも、元凶のお前からは目を逸らして、俺に」
そう言っても、哲平は悪びれる様子はなくて。
「ええやん。見たい奴には見させとき」
「…お前が良くってもだな」
哲平は、手持ちぶさたにリモコンを投げたり受け止めたりしてる。
「んでも、恭ちゃん確かに、うちやとあんまりはがさへんな」
また、段ボールに向き合って漁る。この箱に入れた筈なんだけど。
「まあな、別に嫌な訳じゃないし」
「そうなん?」
「うん。慣れたんじゃないか?」
うん、別に哲平がくっついてくるのはなんか当たり前っていう気がしてる。
ここまで開けっぴろげに親愛の情を示してくる奴なんていなかったけど。
夏場とか忙しいときは困るけど、特に別にいやだとは思わないなあ。
リモコンをもてあそんでるのにも飽きたのか、こつりとリモコンを置く音が聞こえた。
「あ、あった」
「なに?」
のしっと、またひっつかれる。
「おい」
「だって恭ちゃん、ええ言うたやーん?」
「構わないけど、動きづらい」
まして、今作業中だし。
いいけど。
「でもなー、恭ちゃん脇甘過ぎ。なんかあったらどないすんねん」
何かあるって、言われても。
「だって、お前だけじゃないか、くっつくの。なにがあるって言うんだ」
思わず笑う。背後にいるのが威だったら命の危険も感じるけど。
「んー、魔が差すとか」
「首でも絞めるのか?」
間髪入れずに返すと。
「おう」
っておいおいおいおい。
軽く首もとに掛けられた腕が、ちょっと上に引かれて。
俺も応じて、床をぱしぱしと叩く。
「あ、恭ちゃん、ギブ?」
「うん、ギブ」
哲平の体温がまた背から離れた。
やっぱり一瞬、肌寒い。
「ってさ、お前そんなことしないだろう?魔が差すったって、悪意がなけりゃ差すわけもないだろうし」
発掘した年賀状を取り出して、テーブルに戻る。
哲平も、先に戻ってた。
「まあな。ありえんわな」
「そうだろ?」
部屋も暖まってきたけど、やっぱり暖房強いかも
哲平は、エアコンのリモコン手に取ってる。消すのかな?
「しかし、オレ信頼されてんなあ。親友、冥利に尽きるわ」
「当たり前だろ。なんだよ今更」
あ、テレビのと間違えたのか。
何気なく手元を見てると、新聞のテレビ欄引き寄せてるし。
リモコンで電源入れてる、手元。
視線を上げると、哲平の横顔。
まばたきが一拍、長かったような気がした。
「…ホンマにな。一生信じさせたるわ」
「言われなくても、信じてる」
満面の笑みが、こちらに向いた。
fin.
書いてる私がいうのもなんですが…自覚して、恭ちゃん(涙)