この天気なら、悪いモンも飛んでいくな?
快晴
ガラにもなく、ごっつシリアスになってしもた。
あまりにも真剣に、初めて呼び捨てた名前を飲み込む。
態度おかしいん読みとって、そんで相変わらず突っ込まんし。
ボケ殺しー、てそうやなくて。
お前が、手を汚すまでになった人間を怒るより、むしろ哀しがってるように見えた。
なら、安易にそこに踏み込もうとしたオレを、哀しがるんか怒るんか。
どちらにしても、まだ晒す勇気はのうて、騙し騙しやってる気がする。
聞きたなくても、いつか話すから。
そう思いながら、雑踏に消えてく恭ちゃんの背見送った。
見送って、往来のど真ん中で立ち止まる。
任せろ言うたけど、さてどないしようか、って今更。
カメオ言われても、はっきり言うてオレには圏外やなあ。
光りもんに縁はないし、ねーちゃんの横顔やらでも結構値ぇ張るもんなんか、って思うたくらい。
ま、静ちゃんとこには、話聞きにいける自信ある。
言うたらなんやけど、恭ちゃんもおらんしな。張られてる思えば、いくらでも裏掻く手段なんてあるんや。
それに、いざとなれば、ご隠居…て注意聞かんでサツのお世話なった時点で、お説教確実間違いなし。
でも、どこに当たるより、ウチに当たるんが得策か。
大体、殺られてるやつのスジから引っ張ってこれることもあるわけやし、白虎あたりから話聞いて繋いでく必要もある。
手は浮かぶ。
そや、カメオを掴むための、手はある。
でも、オレには美幸ちゃんの声は聞かれへん。
どれだけ叫んでくれてたとしても、出入りすらできん。
きっと、気付くこともできんで、嘆いて怒っとるだけ。
もしも、美幸ちゃんに言いたいことがあって彷徨うてんなら。
捕まえて、聞いたってや恭ちゃん。
待っとってな、美幸ちゃん。
伝えたいことがあるんなら聞いてくれるおひとよしがそこにおんねん。
まとわりついた、なんかがあるなら、きっと恭ちゃん解いてくれるから。
聞き損ねた、声は託した。
汲み取ってくれる、だいじょうぶや。
あのときから、ずっと握りしめたままのように思える肩から、力抜いた。
「……っしゃ!」
パン、と両の手で頬を叩く。頭振って、切り替えた。
これで、髪の長い綺麗な娘のこと考えるんは、しばらく恭ちゃんに任せる。
ついでに、ある意味懐かしい、狭くて暗い、ええ思い出のないサツの小部屋んことも忘れてみる。
勢いに閉じた目を開く。と、胡散くさげにオレを見て、みんな通り過ぎてった。
なんやねん、少うし強めに気合い入れただけやないか。そう思て周囲見ると、目ぇ逸らしてそそくさと立ち去ってく。
ハマが裏手にあるんに、おキレイに澄ましかえった町。
もともと肌に合わん街やから、しゃあないか。
そんなんにハラ立ててたら、血管切れてオレ早死にしてしまう。
まあ、ほんの少し前までは、実際いつもこんなもんやった。
初対面で目ぇ合わせてくんの、おんなじニオイする奴のガン付けだけ。
ここに来ての恭ちゃんとかねーさんたちとか、あと奈々ちゃんとかな。今はたくさんおってくれるけど、本来それは例外中の例外で。
強いひとらばっかやし、ホンマ今まで、そんなんほとんど出会うたことない。
普通、はオレから目を逸らす奴ら。
だからこそ得難いし、大事やと再確認した。それから、不意に思い出す。
覚えとかなならん、最重要事項。一瞬とはいえ、忘れてた言うたら呆れられるコト。
今から、探すんは呪いのカメオ。
物騒やからこそ、ねーさんに欲しがらせたその理由。手にした奴が、必ず死ぬて、そのこと。
恭ちゃん名探偵やから、もしこのままカメオも探してたら、ほんまもんの見付けてもうたかもな。
別に、迷信やらさほど信じてるわけやない。
幽霊やら残る念なんてもんは、時によっては信じてもええ。美幸ちゃんのそれは、信じたい。
でもそんな、無差別に持ち主殺ってまうなんて物騒なもん。現代日本の、よりによって遠羽に転がっててたまるかい、思う。
見つからんのが普通で、結局おっさん持ってきたんも、殺害現場で落ちとったんも違とったで決着つくやろ?
…ねーさん荒れるけど。
でも、もしホンモノやったら。
ご隠居もきっとええ顔せんな。
タマのやりとりして、いつ地獄に堕ちるかわからん綱渡り。そんな裏の世界で生きてた人間は、信心とか迷信とか、やっぱりそれなりにないがしろにはせんもんや。
下っ端になればなるほど、怖いもん知らんから、神さんに唾吐くような真似するし、粋がってなんも知らんまま死んでく。
偉そうに言うたって、まだまだオレかてその類やけど。
だから、オレは構へん。
でもな、恭ちゃんや、ねーさんに直に渡るのだけは避けられるんは良かった。
もしかしてでも、どれだけ不確かな噂であっても、そんな噂があるだけで、オレの知らんとこで手にされとうない。
大事やし、得難いんや。
オレかて、それっぽいもんに当たってしもたら問題やけど。
変な弾みでオレ以外に渡るよりええ。
当たってしもたら、恭ちゃんには相談しても、オレがカメオ自体は持つようにして。
…ねーさんに渡すとかは、そんとき恭ちゃんに相談しよ。
覚悟決めて、そのときまた改めて、ご隠居に相談するんもありやろう。
主に覚悟ってのは、ご隠居にご注進したことでのねーさんの怒りについてのと。
そんなやばいもん、ねーさんの頼みとは言え見付けて、ねーさんに渡そうとしてるオレへの、…長い説教への。
きっついけどな。
ま、このまんまなら、取らぬ狸のなんとか言うやつや。
早う見付けな、まずせっかく任せてくれた恭ちゃんがっかりさせてまう。
早うみつけな、…恭ちゃんあんまりツいてないみたいやし、うっかり転がり込んでしまうかもしれん。
早うみつけな、…ねーさんも、恭ちゃんとは別の意味でトラブル呼んでまうみたいやし、オレら使わんでも、呼び込んでしまうかもしれん。
だから、とっととオレんとこ来いや、カメオのねーちゃん。
誰より先に逢いとうて、こんなジリジリ焦がれてんのやで?
冗談めいて考えて、ちょっとだけ笑うて。
照りつけるお天道さん抱えた空見上げて、少うし調査もうまくいくような気になって。
そや。呪いなんて、きっとニセモンで、恭ちゃんとこもうまくいくに違いない。
オレもうそっぱちって笑いながら、カメオ、ねーさんに差し出して怒られよ。
全部、大丈夫や。
オレは、オレのできることしたらええ。
せやから、さくっと静ちゃんのご機嫌伺い行こか。
ぼやぼやしてる、ヒマはない。
fin.