遣る瀬無うて、哀しゅうて。
煙草吸いたい、そう思たけど。
きっとあの娘は嫌いやろうから。
聞けない言葉
そのニュースを見て、頭真っ白なって屋敷飛び出した。
そんなん嘘や思た。
テレビやら、雑誌やらから伝わる情報しか俺は知らんけど、それでも。
自殺なんてことと、全く繋がらんくらい強い力があるように見えた。
自分の望みや、せなあかんことを誰よりも知ってて、それを目指すことに躊躇ってへんかった。
真っ暗な夜、高いビルの下、その娘の最期の場所はすぐに分かった。
数人で寄り集まるようにして泣いている女の子ら。
場違いに、八つ当たりしてる学生ぽいガキども。
そこに遺されてるんは、無粋な目印と目を逸らしたなる傷痕。
「なあ、何で?」
問いかけても、返る言葉はあるわけない。
メディアなんてものの向こうに、自分勝手に投げてた思い入れ。それに、あの娘は飛び抜けて強い瞳の光と、指先まで意思の通った振る舞いで返してくれてた。
返されてたと、そう思っとった。
自分なんぞに、分かるわけないのに。
あの娘の、こころなんてオレに分かるわけない。
あの娘が、こんな選択肢選ぶわけないて、話したこともないのにどうして分かる。
あんな綺麗な娘、きっとオレとは対極で。
汚いモンばっか見てきたオレが、どうして理解できるっていうんや。
そんなもんばっか見てきたから、誰よりも綺麗なもん見分けんのは得意やけど。
でも、それ以上は、無理なんかもしれん。
あの娘が去っていった場所に、そこらへんで摘んだ花を置く。
手を合わせて冥福を祈る、なんてことも出来んで。
ただ、積まれていく追悼の花を見つめとった。
ふと、振り返ると。
どっかで見たようなかわええ娘が、泣き出しそうになって、同じようにその花を見つめとって。
口元が、歪んだ。
笑おうと、あの娘の代わりに、少しでも元気づけようと思うたんかもしれん。
ああ、きっとそう思ったんとは裏腹に。
泣き出しそうに情けない顔に見えたことやろ。
「寂しいな」
呟いた声に、その娘が泣き出しそうに頷いたんがわかる。
あの娘がもうおらんことも、誰もそれを止められんかったことも、自分がそれを、どうしても自身の意思やと信じられんことも。
全てぐちゃぐちゃになって迫ってきて、こみ上げるのが怒りなんか哀しみなんかも分からんまま、アスファルトの地面を蹴りつける。
それでも、あの娘の意思や無かったら、それは余計、オレにはどうしょうもないことで。
そうやない、て信じることにする。
いつの間にか、あの女の子はおらんようなって。
オレがぼんやりと立ちつくしてる間にも、この場であの娘を悼む顔ぶれは変わってた。
どうしても煙草吸いとうなって、その場を離れる。
セッタ取り出して、火ぃ付けて、深く吸う。
恭ちゃんやったら、掬い上げることができたんやろか。あの娘の、誰も聴くことのできんかった声。
理解できたんやろか、強い瞳の向こうにあったはずの弱さ。
恭ちゃんも、めっちゃ綺麗に真っ直ぐに育って来たんやと、ひと目で知れた。
見た目と違て、えらく強いことも知った。
だから、そばに居たい思た。
多分オレは、自分と違うから、綺麗で強い存在に惹かれる。
ぼんやりと、空に昇る煙草の煙を見つめながら考える。
もしも、本当に綺麗なもんの声が、オレには届かんのやったら。
恭介の声も、本当には理解してやれんのやないか。
やとしたら、やとしたらそれは、とても。
「寂しい、な」
あの娘の歌は、もう聞かれへんけど、せめて、隣で聞ける声だけは。
fin.