それは、ようやっと見つけた。
逆光
知り合ってから、日にちを指折り数えても、やっと片手に届いたばかりの知り合い。
親友なんてのは、出会うまではその場しのぎの言葉の綾やったはずやのに。
すぐにそれが本当になればと思うようになった。
「恭ちゃん、ほんま俺のことなんも訊かへんねんな 」
中山の死体なんて気分悪いもん見送ったあと、そう零した。
俺が口走った物騒な言葉を聞き咎めたんはご隠居が上手く遮ってくれたにしても。
訊くチャンスはゴロゴロ転がっとった。
転がしといたんやけどな。
「そうだな、せめて出会ったときに名字くらいはきいとけば良かったって思うよ。俺探偵なのにな、どうも、そういうとこ致命傷かもしれない」
少しだけ目を見開いてこっちを見て、少しだけ考えて返ってきた言葉はそれやった。
「そうやな、恭ちゃんウブやもん。突然ナンパされても、訊かなならんこともきけてへん。…かわええなあ」
そう言うて、ヘッドロックかまして頭撫でてやろうとしたら、思いっきり裏拳キメて逃げてかれた。
ダメージ残る顔面を撫でさすって、逃げた先を見る。恭ちゃんが、ガイジン役者みたいに片眉ぴんと跳ね上げて、そんで呆れたみたいに笑ってた。
誰やって疑問に思わんわけないし、それでも割と直球な俺の言葉をかわした。
訊くんが怖いわけやなくて、まして裏に通じてるらしい俺のことを利用するなんて思ってもない。
ただ俺が、実は話すの踏ん切りついてないんわかってるんやないかって、思う。
そんな鬱陶しい考えを断ち切るように、ここで、呟く声が聞こえた。
「じゃあ、俺潤ちゃんのとこ行くから」
そう、天狗橋で別れる。
走り出して半身で振り返り、そう片手を上げた恭ちゃんの顔が眩しかったんは。
頭を過ぎった恥ずかしい考えと違うて、ただ逆光が眩しかっただけやって分かってるけども。
fin.