春の光は届かなくても、確かに。




春告げ




「こらヘル、何くわえてる?」


見上げてくるヘルの口元から、赤と青の小さな鈴のようなものを奪う。



今日は、成美さんから恒例の呼び出しを受けた。
「起きてくるまで掃除をするように」との命令に従って、おとなしく店の掃除とかしてる。
あと、ヘルの食事の買い出しも。
ちなみに成美さんは寝直したし、哲平からはご隠居のお供で日中は無理ってメールで聞いた。

“夜は大丈夫やから安心してな。骨は拾ったる”
とか締められてたけど、そう言われて嬉しいわけもない。
どことなく暗い気分になりながら、掃除も終わった頃だった。



確かめてみると、アサリくらいの二枚貝に、端切れとかで装飾して雛に見立てたもの。
雛貝と内裏貝は飾り紐で結ばれている。

アンティークショップに似つかわしくないそれをしげしげ眺めてると、ヘルが足下で不満気に鳴く。


「これはお前のじゃないだろう?食事の催促なら待っててくれよ」
そう喋り掛けてから、部屋を見渡す。
どちらかというと民芸品だろうこれに似合う落ち着き場所はなく、仕方ないからアンティークのテーブルに、揃うように置いた。



そしてヘルに餌を出す。確かにもうそろそろストックがない。
ふう、とためいきを吐いて店を出て、合鍵で戸締まりをする。
出る旨を呼びかけたりでもしたら、きっと不機嫌にさせてしまうだろうし、黙って行くことにした。



3月になってもまだ寒いけれど、良い天気だ。
ヘルの食事ついでに、自分の用事も済ませてしまおう。特売とかもあったような気がするし、冷蔵庫の中身も心許なかった気がするから。


公園を散歩気分で通り過ぎながらつらつら考える。



ああいうものは、やっぱりご隠居が成美さんに贈ったんだろう。
ひなあられとか甘酒とかも買って来ようかな、とかちょっと考える。考えて、きっと成美さんが喜んでそれを受け取るとも思えないし。
下手を打てば今夜が怖い。


でも、今まであれを見たことはなかった。
割と頻繁に掃除させられてる俺が、見落としたってこともないよな?




だから、あれは成美さんが季節にあわせて出したんだ。




相変わらず、セクンドゥムの窓は閉め切られたまま太陽の光を通さない。
営業は、日が落ちてから始まる。



季節の移り変わりを超越したような場所だけれど。



確かに春が来てると思えて、なんだか嬉しい。

















fin.










ひな祭りになんで恭ちゃんが。
いや、実は全く出す予定はなくて、柏木家絡みの筈だったのですが。
語り部さん候補は複数いましたが、結局全員却下。
ほのぼのになってよかったなあ。
春だし。