あなたがいなければ、俺は生まれていなかった。









それは、余りにおぼろげな記憶。

父さんの膝の上で、小さい俺はショートケーキに夢中だった。




「そうだな、6歳になったらグローブとか買って、キャッチボールとかもいいな。父さんにそんなことしてもらった覚えはないけど」

頭越しに交わされる会話を、どうして今も覚えているのか分からない。

「それで、二十歳になったらふたりで酒を飲むんだ。大学とかに行ってたら、呼び戻してでも飲んでやる」

朗らかに笑う声に、不思議に思って見上げた。
父さんが、口元に運ぶ小さな器が、欲しくなって手を伸ばした。

「こら、まだ駄目だ恭介。成人式…でもまだ駄目だな。20歳の誕生日に、一緒に飲んで話をしよう。お前の父さんとの、約束だ」




約束、という言葉の意味すら分からない頃のこと。


20歳の誕生日は、そう言えば家に帰っていた。
盃に注いだ日本酒を、じいさんが仏壇に供えていたかもしれない。

黙って酒を酌するじいさんに、付き合って俺も少しだけ。


父さんは、未来に俺がああして走ることを。
真実を知ることを望んでくれていたのだろうか。




親戚付き合いの少ない家だった。
いつの間に子供が生まれていたのかと、両親の葬儀の時に親戚が驚いていたらしい。

そして、その親戚が。

それでも、どことなく父親に似ているところもあるね、と言ったらしい。




その気になれば、どこかが似て見えるものなんだろう。
今となればそう思う。


成美さんが前に呟いた言葉や手に入れた写真から考えたって、俺は杉内和将、という本当の父親によく似ているんだろうから。





それでも、3年間育ててくれた“父”と、似ているところがあったって良いだろう?
食事の好みでも仕草でもなんでもいい。




全てを知って、だからこそ。
父さんと話がしたかった。

あいにく、情けなくなるほど下戸だから、一杯くらいしかつきあえないだろうけど。
















fin.














真神の父ってどんなひとだったんでしょうねえ。
恭ちゃんお誕生日おめでとう。
祝ってない話だけど…