物書きさんに20のお題【赤】
※ 10行以内(空白行除く)。
※ 人物を指す固有名詞を出さない(一般代名詞なら可)
※ 語り手となっている人物が被らない。
※ 哲平と恭介を出さない(笑)
以上を縛りとして、お題を進行しました。
01.ゆびきり
02.水たまり
03.世界を変える方法
04.サイン帳
05.リセット
06.初雪
07.赤ピーマン
08.オープンカー
09.ゴミ箱
10.弱音
11.一酸化炭素
12.不規則
13.P.S.
14.エレベーター
15.待ちぼうけ
16.BGM
17.統合失調症(精神分裂症)←保留中
18.99パーセント
19.四畳半
20.シュークリームを2つ
「見てパパ、およめさんになるって約束したのー」
誇らしげに、小指を掲げてみせる様が我が娘ながら、だからこそかわいくて。
「いつか、違う指にした約束を、俺に見せるようになるのかな」
「…あと15年は先でしょう?」
くすくすと、笑う妻にに苦笑を返しながら。
抱きついてくる愛娘を抱き上げて、やわらかい頬にキスをする。
今はまだ、家族の特権。
--朱原一家
雨が止んで、お日様が顔を出したときに、水たまりに、思い切りふみこむのが好き。
小さいときから、そんなことばっかりして怒られた。
周りの人はとても困った顔をするけど、それでも。
あしもとを跳ねる水が、きらきら光るのが、小さいときから嬉しかった。
一生懸命話しかけたたくさんの話題の中で、
それについて喋ったとき、いつもまっすぐな瞳の奥の光が、少し優しくなった。
そういうところが、とてもとても好きだった。
あふれる光の中に、今私はいるけど。
あしもとに見つけたささやかな輝きと、あの瞳の奥の光が、一番大切な光。
--春日野 唯
それが、世界を変える方法だと思っていた。
最善ではなくても、そのために潰れるちっぽけな世界は取るに足らないものなのだと。
それが、それらの世界の何よりも、卑小な世界を守るための欺瞞だと気付かずに。
否、気付いていたから尚のこと。
その方法の先にあるはずの、本当は何もない世界にひた走った。
--諏訪 高貴
「ねえ、ここに書いてー」
「え、うん。わかった」
渡された、かわいいサイン帳。こういうのは、もう自分ではやらなくなったけどやっぱり好きなんだと思う。
ぺらぺら、とめくって”先生”に描いてもらう欄。私達のクラスは、学年の途中で担任の先生が替わった。
そこに、何故かセロハンテープで貼り付けてある、折り畳んだ紙を開く。
「こ、これ…テストの答案?」
「うん、ほら、”もっとがんばりましょう”って書いてあるでしょ?…だから」
…うん、きっと、確かに先生の本音そのままだと思うんだけど。
あのね、きっと一生大切にとっておくんだろうから。
だからもう少しがんばったのにしてくれって、先生もきっと苦笑してるよ?
--茅原 奏&鴨居 奈々子
柄にもないことを考えた。
どこまで戻れば、この道を進まないという選択肢を、選べただろうと。
そして、嗤う。
どこまで戻っても、必ず選び取る。
自分が悔やまないように、選ぶ。
何度でも。
その道筋に、まだ、そこに居るはずのひとがいない限り。
―――――まだ、出会うはずのない奴に出会わない限り。
何度、戻っても。
--森川 直治
「ちっ、冷えるな」
そう、見上げた空から、今年初めての白い欠片。
「…冷える訳か」
『お父さん、初雪!』
『そうか、そりゃよかったな。今からお友達と雪合戦か?』
『…もう!そんな小さい子じゃないんだから!」
母親によく似て、初雪を見たら報告せずにいられない娘を、毎年からかって遊んだ。
確か、日本に帰ってきてるはずだ。遅かれ早かれ、雪を目にするんだろうが。
今年は誰に報告するんだろうな。
来年は、きっとまた、俺が聞いてやるから。
-鳴海 誠司&京香
「あ、あたしこれ駄目」
「赤くても駄目ですか。あまり癖のない味だと思うんですが…」
テキーラサンセットのあと、味見にって差し出された料理を突き返す。そんなこと言っても、だってあたし、この野菜の存在自体嫌いだし。
「おんなじ事言わないでよね」
ふう、と呆れて溜息をつくと、誰のことか分かったみたいで苦笑してた。
思い出すのは、小さいときに好き嫌いに手を焼いて、お手伝いさんに相談していた声。
「せめて、好き嫌いは減らした方がよいと思ってなあ。だが、あの娘は目先を変えても誤魔化されては、くれんだろうが」
「味もだいぶ違いますから、何か作ってみますね」
その会話聞いてあたしが、素直に食べるわけないじゃない。それを、苦笑だけで流したのも予想通り。
好きな物だけしか寄せ付けなくなったのって、あたしの所為だけじゃないと思うんだけど。
--月嶋 成美&八重島 かおる&柏木久蔵
頭の悪そうな若い男女が、下品な赤の屋根無しの車で脇を通り過ぎた。
「ふん、周りの目もわからんのか」
わしが若い頃は、まだ人力車があって。
新橋の芸者なぞよりよっぽど、羨望の眼差しを集めたんじゃ。
そのなか、目的地で降りるわしの手を、車夫より先に取って。
ふと、自分の手に目を落とす。
ほら、皺は増えてしまっとるが。
あのときのまま、重ねて引かれたそのときのまま、綺麗な手のかたち。
--阿舘 静
「こちらは必要有りませんわね?処分します」
イベントが3日後で目の回るほどに忙しいのに、ペット関係のダイレクトメールをいやに熱心に見ているから。
完璧な微笑を浮かべて、それを手から取り上げた。
情けない顔で懇願されたけれど、完璧なまま凍り付いた微笑で退けて、そのまま横のゴミ箱に入れた。
今、本棚も、机の中身も全てからっぽ。
ご丁寧に、ゴミ箱の中の、一見なんの変哲もないそれさえ、捜査資料として押収されていった。
これから聴取を受けて、そして、この事務所の処分もしなければならないのだけど。心はあまりに空虚で。
それなのに、奥深くでどろどろと、哀しみや怒りや混乱が、澱のように溜まっていく。
以前の私のように躊躇い無く捨て去って、歩いていくことは出来るのかしら。
--緒川 梨沙
誰より努力しているのを、きっと本人より知っている。
そして、本人さえ気付けない成長を、誰よりも気付いてる。
それでも。
足りないから、まだまだ足りないから。
だから私の口は、厳しいことばかり。
絶対に悔やまない。
その生き方は、私が誇れるものだと思う。貫き通すべきものだと思う。
「……優しい言葉は、好きなんだけどね」
だけど…言えない、言わない。
--高崎 美幸
喫煙所が、遠くなった。
のんびりとふかしているのが咎められにくくなった。実際、昼行灯めいた俺を咎めるのも暇な課長くらいだけども。
その扱いに、俺よりよほど不満げなのもいるけど。それを見て、青いなあとしみじみ思ってみたりしてる。
きっと昔、俺もこんな目で見られてたに違いない。
煙草の煙に害があるとかなんとかで、外れに追いやられてるわけだけど。生きにくいとは思っても、憤慨する気にはならんし。
殺人なんかを捜査する俺が、端のほうでのんびり昼行灯してられるなんていいことだ。なんて言ったらやっぱり怒られるんだろうなあ。
ありありと、その様子が目に浮かぶ。
まだまだ青いその正義感は、それなりに先行きがどうなるか楽しみだったりもするし、飽きないし。
「俺も、つくづく丸くなったかねえ」
ひとりごちて、吐き出した煙を見送った。
--氷室 裕
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
僕が出迎えると、ひどくバツが悪そうに目を逸らして。
「なんだよ、嫌味か?遅くて悪かったな」
違うよ、そうじゃない。
お父さんの仕事は、決まった時間に帰ってこられる訳じゃなくて。
それなのに、顔を合わせるのを嫌がって帰らないお姉ちゃんをずっと待ってて、だからお姉ちゃんは。
悪循環、ってこういうことなんだって思った。
今は、バツが悪いみたいで帰りはまだ遅くても。
「ううん、お風呂沸いてるよ」
母さんが、起きてる時間には帰ってきてくれるから。
--波多野 睦美&皐月
”いつも来てくれてるから、今度、私、お話行っていい?"
お昼の日差しが差し込んで、白っぽい部屋のなか。
メールの最後に、思いついてつけたしたその文字が、浮き上がるように見えた。
たえられなくて、それを消して、送った。
まもれない約束は、するのだめだから。
--李 涼雪
エレベーターに乗るのが怖いなんて、そんなことを言ったら現代でなんて生きていけないのに。
今の私にとって、この小さな箱はとても息が詰まる。
特に、降りるときは、…本当に、胸が苦しくて窒息しそう。
あのときは、腕に走った幾筋かの痛みから目を背けて。
混乱しながら、とにかくその場を離れたくて、じっと、減っていく階数表示を見つめていた。
そして降りて、やがて目の当たりにしたものは。
悲劇を呼んだのは私だから。
それから逃げないように、忘れないように、この胸は悼む。
目を瞑って、ふるえる手を握りしめて。
今も、厚い扉が開くのを待つ。
--桧山 明日香
待つのには、慣れている。
待ち望んだ赤ちゃんの代わりに、沈痛そうにみせかけて、どこか嬉しげに歪んだ顔をしたあの男が来たときからずっと。
激痛に霞む意識の中で確かに産声を聞いたから、どうしても死産だなんて認められなかった。
我が子だと、抱きしめたかったれど。
母親と、呼ばれたかったけれど。
しあわせでいてくれるのなら、ただその成長を見ているだけでよかったのに。
私がこれから逝く先に、あの子がいてはいけない。いるはずがない。
あの子は何も、悪くなんてないから。
抱きしめられなくても、呼ばれることが無くても、…見ることすら出来なくても、あの子がしあわせなら。
待つのには、慣れている。
--江崎 知代子
「奴らがいなくなってから、灯が消えたようさ!」
「確かに、いつ来ても寂しかったりするわね、最近。…いつか潰れんじゃないのー?」
いつも入り浸っていた数人が消え、不穏な噂も立って、以前より客がいなくなった。
まあ、潰れるまではいかないだろうけど。
「HAHAHA!心配してくれるのかい?その優しいココロに感激の涙が止まらないな!OK、お礼に一曲捧げよう」
「いらないわよ。早くとっととさっさとてきぱきと作りなさい、注文の」
「Oh!任せときな」
…そして結局懲りずに歌ってる。
辛気くさい噂なんて、全部吹き飛ばしちゃう勢いだけど、ついでに、客まで吹き飛ばしそうな歌声よね。
やっぱり、潰れんじゃないの?この店。
--百池 恵美&サミー
保留中。
思うとおりに全てが進んでしまうんですよ。
あまりにも思い通りで、それが退屈で退屈で。
100%思い通りだって言えばいいのかもしれませんけど、私の望むかたちにはあと1%足りないんです。
私の思惑通り、私の思惑をひっくり返せる人はいないんでしょうか。
その人を見つけられれば、きっと私の望むかたちに満ちるんでしょう。
--威 一凱
久々の我が家に戻ってきても、そんなに落ち着くわけじゃない。
狭くて汚くて、一日中安い給料でこき使われて、戻ってきて寝るためだけの場所だし。
いつになったら俺がメインで企画とか作れるのかな、とかそんな夢だってあの仕事場で見てる。
全然ぱっとしないのが、まんまこの部屋に出てる感じかな。
でもさ、ほら、売り出し中の美人タレントさんなのに俺なんかの見舞いに来てもらえたし。
お礼とか言ったら、もう少しプライベートで話できたら、って思う。
彼女の居る世界とは、全然釣り合わない部屋だけど。
そのくらいの夢なら、この部屋で見てみようかな。
--富野 博喜
下校すると、珍しく母さんが早く帰ってきていた。
テーブルの上には、小さなケーキ屋の箱。あるときまで、うちでもよく見かけていた、多分とても高級な店の。
ふたりで食べなさい、そう微笑んだ顔は、ひどくやつれていた。
ひとつを取り出し、妹の小さな手に、シュークリームを包み込むように持たせて。
「おいしいね、お兄ちゃん」
一口食べると、大きな瞳に俺を映して嬉しそうに笑った。
もうひとつは。
「母さん、俺は良いから食べて」
驚く母さんに笑い返した顔が、少しは頼もしく見えたらいい。
母さんがとても好きだった、このシュークリームを買ってきていた彼のように。
--嘉納 浩司&潤
小話下部の空白行を反転すると、誰の話か分かります。